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データに見るWeb心理学

ホームページの数値の向こうに人がいる

Webの数字の向こうには人の気持ちがある、と94年に気づいた

Webの数字の向こうには人がいます。それがこの項に「心理学」という言葉を使っている理由でもあります。Webの向こうに人がいるというのを感じたのは94年のお話です。

年寄りの思い出話と思うかもしれませんが、めったに書かないそのころの話をさせてください。ちょっと長くなりますが、2回に分けるほどのネタでもないので…

■大阪のデザイン会社が接続ポイントを始めた

そのころ、大阪で仕事していたデザイン会社になぜかイギリス人のエンジニアがいました。そのイギリス人にカナダ人の友達から連絡が入ったのです。「東京でISP(インターネット・サービス・プロバイダー、接続業者)をやるから大阪の接続ポイントをやってくれないか」。

このイギリス人はすごいキャリアを持つ人でネットワークも広かったのだけど、社長ではありませんからみんなに相談をする。こんな話が来ているんだがどうしよう、と。これが私が雑誌の記事などではなく初めて目の前でインターネットの話が始まった最初です。

この会社はデザイン会社ですが、当時やっていたのは通販カタログの制作。いわゆるDTP(デスクトップ・パブリッシング)でパソコンは1人1台。なじみがありました。まだWindows95(日本では95年12月)よりも前のことです。

Windows95が発売されたときのCMは衝撃的でした。CM曲はローリングストーンズ「Start Me Up」。あのイントロがテレビから流れてきた時は時代が変わる気がしました、なんて書くと本当に年寄りの思い出話ですね。先を急ぎましょう。

■パソコンとだけ対話していたDTP

パソコンにはなじみがあったものの、DTPというのはあくまでパソコンで完結する仕事。対話する相手はパソコンでしかありません。当時のデザイン会社はパソコン通信なども別段必要ないし、黙々とみんなパソコンに向かって深夜まで仕事していました。どっぷりその空気の中にいた私にも「パソコンの世界が広まるとディスコミュニケーションの時代になる」と感じられました。

イギリス人から相談を受けたデザイン会社は、インターネットや接続業者が何なのか分かっていません。もちろん、後に「ホームページ」というものがデザイン会社の重要な仕事になるとも思っていませんでした。

でも、非常に面白そうという印象はあったので、一も二もなくOKです。やってみよう。

すると、東京で設立されたISPからアメリカ人のエンジニアがタンクトップで髪の毛を後ろに縛って大阪にやってきて、デザイン会社にモデムを並べていきました。4段ぐらいのスチールラックにモデムが15台も並んだでしょうか。あっという間に作業は終わり、私にはまだこれが何なのか分からずポカンとしていましたが、これはいわゆる受け側のモデム。つまり会員が自宅からインターネットを使おうというので、電話をかけてくる場所なのです。

当時は定額・使い放題ではないので、大阪の人は大阪に接続ポイントがないと市外料金を取られたのです。

といっても当時は会員なんてまだまだ少なく、モデムはぜんぜん光らないのでした。

■モデムが光り、消える

デザイン会社としては接続ポイントをやると面白いのではないかと張り切って引き受け、私も張り切ってその担当者になったのですが、拍子抜けです。私の仕事はちっとも光らないモデムを眺めていること。

会員からアクセスがあると、1番のモデムに光がともります。ピコピコピコと光って、消えました。アクセス終了です。回線代が高いのでみんなゆっくり見ていない感じです。「ネットサーフィン」なんて言葉が流行りましたが、ずいぶんせわしないサーフィンです。
しばらくするとまた1番が光って、ピコピコピコ。そして消える。

だんだん会員が増えてくると、1番が光っている間に2番も光りだすようになる。3番、4番…。これはつまり、インターネットの会員が増えていく様でした。すぐにほとんど常時全部のモデムがひっきりなしに光っては消えるを繰り返すようになるのですね。

つまり、この明滅そのものが人の動きなのです。もちろん細かい明滅に人間的な意味はありませんが、当時DTPで黙々とパソコンに向かっていた私たちは、その光を見ているうちにその向こうに人間がいることに気がつきました。

■「直帰率」の誕生

それにしても、ピコピコの明滅があまりにも短いのが気になりました。みんなすぐにアクセスをやめてしまっているのでは? いったい何を見て、あるいは何を見ないのだろうか。

そう思ってイギリス人に聞いてみると、「ログ」というものがあるのだと教えられました。そこにはその人がどのページを見たか、いつ見たか全部記録されていると。これは面白いと、データをもらってテキストエディタで開いてみました。IPアドレスという数字が同じのが同じ人だからと言われて、エディタの検索機能で同じIPアドレスを追いかけてみる。すると…

当時のホームページは画像があまり使われていません。今のWebでは1HTML平均50近い画像やCSSがぶら下がっているので、ログも1人が1ページ見ただけで50行近く記録されてしまいますが、当時はまだ1ページで4,5行といったところでした。だからエディタの検索機能でも追いかけられたのです。

しかし、追ってみると訪問者が見ていたのは大半が1ページだけ。すぐに帰ってしまうことが分かりました。次のIPアドレスで検索。画像以外何も出てこない。次のIPアドレスもその次も…。悲しい。たまに2ページ目に進んだ人を見つけるとうれしくなったものです。

これは「直行直帰」というやつだな。と感じて、その割合を計算してみたいと思ったのが、直帰率というものの始まりでした。

あるページにAに移動するボタン、Bへ行くボタン、Cへ行くボタンがあるとクリックされているのは左端のAばかり。これ、ボタンの位置を入れ替えたらどうなるんだろう? そんな風に考えて、私のログ分析生活がスタートしてしまうのですが、そこに訪問者の心理やWeb側との駆け引きがあることに気がついたのがこのころ、というわけです。

長くて済みません、次回はもう少しリアルな心理に迫っていきます。

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